『この世の終わりなど見たくはない』特集 part1

取材、構成、テキスト:志田歩  写真:名越啓介

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2015年9月発売 「この世の終りなど見たくはない」

 

○朴保とは何者なのか?

1955年に山梨県で韓国人の父と日本人の母の間に生まれた朴保は、1979年に広瀬友剛という名のソロ・ヴォーカリストとしてメジャー・デビュー。

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朴保 (Vocal,Guitar)

翌1980年に韓国を訪れたのをきっかけに、朴保と改名した後、1983年から90年代序盤にかけては、アメリカで60年代のフラワー・ムーヴメントの聖地であったサンフランシスコを拠点として活躍し、90年代半ばからは再び日本で活動しているベテラン・アーティストだ。 彼の特異な点は、その全キャリアを通じて、日本と朝鮮半島のみならず、アメリカン・ロック、レゲエ、そしてネイティヴ・アメリカン、アイヌ、沖縄(琉球)といった先住民族など、様々な文化的な領域を縦横無尽に行き来することで培い、研ぎ澄ませてきたマルチ・カルチャーな世界観にある。これはいわゆる“ミクスチャー”というレベルではない。デスクトップ上で手軽に繰り広げられる順列組合せではなく、彼自身の内に宿った様々な文化的なコードが融合することで、朴保の心身は長いキャリアを経てハイブリッドなメッセージを発信する器官へと進化してきたのである。

 2015年のニュー・アルバム『この世の終わりなど見たくはない』は、今回新たに結成した新バンド、ボーディダルマ(Bodhidharma=菩提達磨の意)によりレコーディングされた。本作で奏でられている楽曲は、そのいずれもが、彼の長いキャリアの経験のひとつひとつが思いもかけぬ形で、しかしまるであらかじめこのアルバムでの実りをもたらすためにプログラミングされていたかのように結びついた結果、生まれ落ちたものばかりだ。

 

○新バンドBodhidharmaの結成について

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朴保 and Bodhidharma

Bodhidharmaという新バンドの結成は、あらかじめ予定されていたわけではなく、アルバム『この世の終わりなど見たくはない』の制作過程で決定したものだったという。

──バンド名の由来は、どういうところから?

朴保 レコーディングを始める時は、ただ朴保のソロ・アルバムを作ろうということだった。バンド名はね、俺がダルマみたいな顔をしてるっていう人もいるんだよ(笑)。で、自分のオフィスを持つなら、ダルマパークってのが良いっていつも言っていたわけ。ともかくダルマって言葉が面白いなって。自分で名前の由来を調べたことがあって分かったんだけれど、保っていうのは法(ダルマ)を守るって意味があるんです。秩序とかを守る人の事をダルマキーパーっていうんだけど、アメリカにいた時には、あるお坊さんにも「あなたはダルマキーパーだ」って言われていた。俺もその気になってそうかそうかって(笑)。だからダルマって言葉は、いつも頭の中にあったんだ。般若心経もアメリカ時代に覚えたんだよね。

──そういえば朴さんは90年代の終わり頃に、ソロで「般若心経」をレコーディングしたこともありましたね。

朴保 今は暗唱できないけど、アメリカにいた頃は何も見なくても言える位にはなっていた。仏教については習わぬ経を読む位しか知らないし、両親も仏教には全然関係ない。僕も別に仏教徒ではないけれども、そういうものに近づこうっていうのがあったんだよ。座禅のクラスがあってお坊さんがいられない時は、アメリカ人の生徒をダーッと並べて、にわか先生をやってた。インチキ臭いけど(笑)。あの頃はちゃんとした座禅組めたもんね、45分間! これが気持ち良くてね。

──アメリカ時代の経験もあったからこそ、新バンドのBodhidharmaに行き着いたというわけですね。

OGIE YOCHA [ONENESS] [POE-05]

OGIE YOCHA [ONENESS]

朴保 僕がアメリカにいた時にやっていたOGIE YOCHAってバンドは、地球をひとつの乗り物に例えて、世界中の人がボートに乗って、いっしょに漕いで行くんだ、新しい新世界を作るんだと、そういうメッセージを持って演奏していた。今回Bodhidharmaっていうバンド名になった流れには、アメリカにいた時期にネイティヴ・アメリカンと会って教えてもらった“ホピの予言”も入ってると思う。“ホピの予言”では、一番はじめの黒い人がアフリカの人で、白い人が奴隷として黒い人を連れてきた。赤はネイティヴ・アメリカン。それから黄色の人、つまりアジア人だよね、その人達が世界を上手くまとめるという予言なの。だからアジア人のバンドで、Bodhidharmaっていうのは良い名前だと思うんだ。

○70年代からの旧友との再会

アルバム『この世の終わりなど見たくはない』のプロデュースのクレジットは、宮下恵補&朴保。Bodhidharmaのベーシストである宮下は、朴保が1979年に広瀬友剛名義でリリースしたデビュー・アルバム『それでも太陽が』にも六川正彦と曲を分け合う形でベーシストとして参加している。なお同じくBodhidharmaのメンバーである土屋潔も、このデビュー・アルバムにギタリストとして参加している。

──土屋さんと宮下さんは、デビュー・アルバム『それでも太陽が』のレコーディングに参加なさっていたんですね。

朴保 今回のレコーディングでは、デビュー前の70年代にネットワークってバンドをやっていた頃の人達に凄く会いたくなって。ベースの宮下さんとかと、もう一回やりたいなって思ったんだ。土屋さんは六川さんとグレムリンてバンドをやっていて、そのドラムが井ノ浦英雄さんだった。で、六川さんが新しいバンド作りたくて、僕を誘ってくれて作ったのがネットワーク。凄いバンドだったよ、今じゃ有名なミュージシャンとかも観に来てた。

──そういう交流があって、井ノ浦さんも『それでも太陽が』に参加しているわけですね。ネットワークは、どんな顔ぶれだったんですか?

朴保 ネットワークは、ベースの六川さんとギターの土屋(潔)さんと井ノ浦さんがドラム。それからジパング田山がキーボード。今回のアルバムにもゲスト参加してくれた後藤輝夫がサックス。その頃のミュージシャン仲間の中でも、六川さんとか宮下さんは、早くから第一線に入っていった人達だった。六川さんが誘ってネットワークってバンドを作ったんだけど、忙し過ぎてやれなくなっちゃったんだよね。それで六川さんを中心に「お前もソロでデビューした方が良いんじゃない? 俺らがバックアップするよ」って話になって、下北沢ロフトで一回ショーケースのライヴをやった。その時のギターは土屋昌巳、ドラムは古田たかし、ペダルスチールが駒沢宏季(=駒沢裕城)だった。

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土屋 潔 (Guitar)

土屋(潔)さんはギタリストとして凄く尊敬できる人で、彼の前じゃ余計なことはできない。



きちんとギターを弾く人。かといって小さく纏まっているんじゃなくてノリがでかい。土屋さんはOGIE YOCHAのメンバーのShidoさんといっしょに演ってたというのもあって、アメリカにも来てくれた。一週間位家に泊まっていって、その時もいっしょに演奏したりして。いつかまた演ろうというのはいつもあったんだよね。

去年、宮下さんにトラをお願いしてからまた付き合い
が始まったんだけど、宮下さんが土屋さんと最近会ったって言うんだ。しかも僕の家の近くに住んでいるって。こりゃもう何かの縁だなと思って電話したら、すぐ会うことになって。しかも六川さんが住んでいるのもその近くだって分かった。だから僕はたまたま引っ越したところだったんだけど、まるでこのために引っ越ししたんじゃないかって思うような再会だった(笑)。

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宮下恵補 (Bass)

──今回の宮下さんはプロデューサーとしても大活躍で
すね。

朴保 宮下さんはネットワークのメンバーではなかった。でもあの頃は家が近かったせいかもしれないけど、いつもいっしょにいた。今回の『この世の終わりなど見たくはない』のレコーディングは、多分その頃の人達が核になると思ったんだ。だから「誰かプロデューサーを」って話になった時に、宮下さんにお願いした。宮下さんは正確でいて色気のある素晴らしいベーシスト。今回はここで僕のために一肌脱いでもらいたいと思ったんだよね。

○Bodhidharmaのラインナップ

土屋潔(g)、宮下恵補(b)に加え、朴保バンドのメンバー清水逹生(ds)、高円寺のライヴハウス稲生座のオーナーで、ピアニストの柴田エミ(key)、そしてメンバー最年少ながら5歳からヴァイオリンをはじめて、幅広いアーティストとのセッションで活躍し、朴保の前作『IMAKOSO』にも参加している磯部舞子(vln)。この五人がBodhidharmaのメンバーだ。

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柴田エミ(Key)

──柴田さんと磯部さんは、元々のバックグラウンドにはクラシックがあるそうですね。

朴保 クラシック出身の人は、譜面の通りにやる人と譜面の世界が嫌いで、譜面から飛びだしちゃう人のどっちかなんだよね。

エミちゃんは飛びだす方なんだ。あの人はサイケデリックです。音の持っていき方が面白

い! リズムでガンガンいくタイプじゃないけど、リズムが唸っているところにいろんなものを入れてくるわけ。「この曲でこんなことやっちゃうの?」ってくらい包み込んじゃう時があるんだ。世界をバーンて違うところに持っていったりとか。だからフワ〜っとしてるように見えるけど、実は凄いことてるんだよ。

──磯部さんは世代もジャンルもかなり幅広いアーティストのステージで活躍してますね。

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磯部舞子(Violin)

朴保 4年くらい前に西荻窪の楽器屋にいたら、舞ちゃん(=磯部)がピックアップか何かの修理で来ていて、「良い音してるじゃない、何か弾いてよ!」って言ったら、ピーッと弾いてくれてさ、それで自然にバイブレーション合っちゃった。僕らのところでもやるようになったんだけれど、いろんな人から引っ張りだこで、今じゃスケジュール押さえるの大変なくらい(笑)。宝石を見つけたみたいな感じだね。凄いエネルギーで付いてくる。

僕みたいな本当に出たとこ勝負できた独学とは違うから、きちっとしてる。頼りにできる。僕がこうしたらどうかなって悩んでいる時に、提案してくれる。今まではそういうことを言ってくれる人がいなかった、っていうか自分もワンマン過ぎるんだけど(笑)、でもBodhidharmaでエミちゃんとか舞ちゃんとかと一緒に出来るようになって、宮下さんは全体を観ながら調整してくれて、土屋さんはそれを、「ここは気持ちイイ、ここはどうかな?」って。「ここはギターよりヴァイオリン聴きたいな」とか。歌に専念できる、良い緊張感だよ。

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清水 達生 (Drums)

──メンバーではなくてゲスト・プレイヤーですが、寺田正彦さんも全13曲中9曲と、オルガンで大活躍なさってますね。

朴保 今回の録音ではオルガンが必要だなと思っていたところに、たまたま見たライヴで、彼がレズリーで鳴らしていたオルガンが「良いなあ!」と思って。声をかけたらレコーディングへの参加を快諾してくれた。寺田さんはエミちゃんの稲生座にも出演していたんだよね。本当に大活躍で、楽曲にさらなる輝きを与えてもらいました。

──あとこのアルバムで新鮮なのが、朴さんの弾くガット・ギターの響きです。いつ頃から使うようになったんですか?

朴保 最近、なんだかチャリーンってだけじゃだめでポロリンてのが好きになった。ガット・ギターって独得の弾き方があってね、強く弾けば弾くほど音が弱くなっちゃうから、和音の弾き方にしてもアコースティック・ギターやエレキ・ギターとは全然違う。だから自分でも新鮮でね。まだ慣れてないけど軽くて持ち運びしやすいから、ガット・ギターでのライヴも演っていこうと思っている。

──力むほど音が弱くなっちゃうっていうのがポイントのような気がします。ガット・ギターの弾き語りとかだと、きっと声の使い方も変わってきますよね。音量や音圧で圧倒するんじゃなくて、間を活かした空間の中で空気の粒子に素朴な響きをそっと乗せてあげることで、凛としたものが染みわたっていく。そんな音との向かい方があるから、このアルバムは、朴さんほどの長いキャリアの持ち主の作品であるにもかかわらず、今なお新鮮な息吹が宿っているように感じています。

- 『この世の終わりなど見たくはない』特集 part2 へ つづく -

 

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■タイトル:「この世の終りなど見たくはない」
■発売日:2015年9月下旬
■予価:3,000円+税 ■型番:POE-06
■レーベル:WATCHOUT ■販売:メタカンパニー
■解説 志田歩
EP 数量限定特典!
メタカンパニー/朴保公式サイト通販及び
ライブ会場にて御購入の場合は、左記の
アナログ7inch EPが付属します!

 ■「この世の終りなど見たくはない」収録曲 全13曲
01. Fuji City
02. 愛トワに
03. 一枚のビラ
04. Coz I ♡ U
05. この世の終わりなど見たくはない
06. かわいた心に
07. されどそれも愛
08. Constitution No.9
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09. リメンバー
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10. 二風谷
11. Always with you
12. チェジュ4・3
13. だるまさん転ばないよ