『この世の終わりなど見たくはない』特集 part2

取材、構成、テキスト:志田歩

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2015年10月11日発売 「この世の終りなど見たくはない」

 『この世の終わりなど見たくはない』特集 part1はこちら

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朴保 and Bodhidharma 写真:名越啓介

  • アルバム『この世の終わりなど見たくはない』楽曲解説

 ○Fuji City

アルバムの幕開けは、朴保が少年時代を過ごした静岡県富士市の光景を綴ったミディアム・ナンバー。工業都市であった富士市は、高度経済成長期に大気汚染で気管支喘息患者が続出したり、製紙工場の排水で田子の浦港にヘドロが溜まって水質が極度に悪化するといった公害が深刻な問題になった。

物憂げなコード感が、冒頭の歌詞と相まって街の上空を覆う淀んだ大気をイメージさせる。

──曲の中で描かれている街の様子は、朴さんが過ごしていた頃の景色でしょうか? ご自分の原風景からの問題提起がアルバムの始まりということになりますね。

 朴保 やっぱり自分が公害の街で育ったからね。しかも交通事故も多くて、僕も小学校一年の時に自宅前の国道1号線で事故にあった。そういうものすごく殺伐とした街なのに、富士山は凄く綺麗で、山なんか上ると海が見える。でも煙突があってね。自分が覚えていることといったら赤ん坊が大気汚染で死んだりとか。

だけど海が近くてさ、海に行くのは好きだった。自転車をこいでいったりとか、海を見るのが好きで、国道1号線を行くと沼津の千本浜、そこも泳げたりするの。あの頃の海は、泳いでると浮いている油で真っ黒になったりして、凄いんだ! 昔は豚が死んだりしたらみんな川に捨ててたから、泳いでたら豚の死骸が流れてきたりとか、ニワトリの首があったり、そんな感じだよ。でもみんなキャッキャッいって泳いでたもんね。家のすぐ近くに土手があって東の方が東京で、真っすぐ行くと鉄橋を越えて田子の浦港。

あの頃の空はピンク色。そういうイメージ。で、今はどうなんだと。富士山は怒ってるんじゃないかって、書こうと思ったんだ。富士山が世界遺産になって奇麗だとかってことは、僕はひとことも言いたくなくて、富士山は私たちを見守っているって歌なんです。

助けを求める子どもたちっていうのは福島に通じるんだけど、船頭が声を上げてると、今の安倍じゃなくてね。違う人が「これから嵐が来るんだぞ、用意はできているか」って警告している感じかな。

自分が高校時代に聴きにいったアフロディーテ(=1971年に行なわれた野外フェス“箱根アフロディーテ”のこと)のピンク・フロイドとか、そういう影響もあの曲の中にあると思う。でも音は自分がフィルターしたものが出てくるわけで、それが結果的に何々風ってなっちゃうのはかまわないと思うけど、別に最初からそういうものを作ろうと思ったわけじゃない。僕がつまらないと思うのは、はじめからこういう曲があって、こんな風な曲を作ったらとか、そういうやり方。昔はそういうのが多かったんだよね。そういう時代はそれがOKだったし。どれ聴いてもどれ風だっていうのがはっきりしちゃう。でも俺はアメリカに行って帰って来て、絶対にそういうのとは同じじゃないと思う。いろんなものが入っている筈だし、この歌にもサンフランシスコのスパイスが入っているんじゃないかな。

 ○愛トワに

ホーンとエレピの音色が印象的な和風ソウル・バラード。60年代のオーティス・レディングに代表されるブラック・ミュージックのエッセンスをしっかり採りいれつつも、日本語詞のヴォーカルで自分の世界を作り出す手腕は、1979年に広瀬友剛名義で発表したデビュー・アルバム『それでも太陽が』のタイトル曲でもすでに発揮していた得意技といえる。

──後藤輝夫さんのテナー・サックスと表雅之さんのアルト・サックスが、ソウル・クラシックス風のハーモニーに大きく貢献していますね。ホーンのアレンジはどなたが担当したんですか?

 朴保 ホーンのアレンジは後藤さんが連れてきた表さんて人。良かったよ。

──この曲のドラムは70年代の日本のブルース・シーンを代表するウエスト・ロード・ブルース・バンドの松本照夫さんですが、どうしたいきさつで、レコーディングに参加していただいたのですか?

朴保 彼は西荻窪のLive Spot Terraのオーナーでミュージシャンのテラさんに紹介された。3年前にテラさんや松本さんと山梨と富士で一緒にライヴもしてる。僕の前のアルバムの「花咲かしょうら 夢咲かしょう」も気に入ってくれて、歌ってくれているんだよね。何か通じる歌心があるんだね。前から「バラード、ブルースは松本照夫!」って思っていたので、お願いしました。

 ○一枚のビラ

曲調は軽快なアメリカン・ロックだが、歌詞の内容は筋金入りのアクティヴィスト、松野哲二をモデルにした硬派なもの。エレピは朴保バンドで活動を共にしていたSassy Tomoがゲストで参加している。

──この曲のドラムは四人囃子の岡井大二さんですが、どんな交流があったのですか。

 朴保 岡井さんもテラさんのところであったんだ。「あっ!四人囃子の人だ」って。Terraではいろんな人の誕生パーティやってて、岡井さんの誕生パーティに、岡井さんがドラム叩いて「ワッツ・ゴーイング・オン」や「ノー・ウーマン・ノー・クライ」とかと、もうちょっとロックっぽいやつをセッションしたんだ。四人囃子は『一触即発』が出た時に聴いた。最高だよね。

──先日クロコダイルで行なったライヴでは、この曲のモデルになった松野哲二さんが場内にいらしていて、MCで紹介なさっていましたね。

 朴保 彼と知り合ったのは、世田谷に住んでいた頃。酔っぱらった帰りの三軒茶屋の電車の中で「朴保さんでしょ」って話しかけてきた。朝鮮学校の生徒が、チマチョゴリを裂かれた事件があったでしょ。あの頃。

──1998年のテポドン騒動の後のことですね。

 朴保 で松野さんは“チマチョゴリ友の会”ってのをやってるんだって言うんだ。それで「私はチマチョゴリを裂かれたって歌を作ったばかりなんだ」って言ったの。

──2002年のソロ・アルバム『いつの日にかきっと』に収録した「雨に咲く花」ですね。

朴保 そしたら「どこか飲みに行きますか?」って。そりゃ行くしかないよね(笑)。彼は“府中緊急派遣村”でホームレスの人をもう一回就職させる運動もやってて、「週刊金曜日」でも紹介されたりしてる。“チマチョゴリ友の会”の代表としても頑張ってて、朝鮮文化とふれあう集いやフリーマーケットをやったりキムチを作ったり、そういうことをやっている人。「私はなにも在日のためにやっているんじゃない、自分のためにやっているんだ。この問題を考える事は日本を良くする事。だからやっているんだ」というんですよ。

朝鮮学校が高校無償化の適用を除外されて補助金がカットされた時、それはおかしいだろうということで、2013年に日比谷野音に在日の子どもと先生やら親達が全国から7500人集ったんです。僕もそこで歌ったりしてね。その後みんなでパレードをしたんだけど、右翼が道路沿いにダーッている中で、彼は鉢巻きして、先頭の一番危ないところを守っている。最前線! 凄い人だなと思ってさ。その打ち上げで彼がもうノドをガラガラにして、「一枚のビラ、ひとりの声が世界を変えるんだ!」って。それを「(曲に)もらいましたよ」っていったら、「どんどん曲書いてくださいよ」って。それで出来たのがこの曲なんだ。

 ○Coz I ♡ U

ピアノ、オルガン、サックスの華やいだ響きに彩られたシンプルなラヴ・ソング。4分に満たない比較的コンパクトなサイズの楽曲だが、声色も巧みに使い分け、緩急の起伏に富んだヴォーカルが、人懐っこい色気を醸し出している。

──この曲のドラムも、「愛トワに」と同じく松本照夫さんですね。

 朴保 松本照夫を紹介してくれたテラさんのことをちょっと喋ると、彼は実は僕の昔からの友達の古代まことと仲が良くて、古代が僕を呼んでくれて、ふたりで半分ずつショウをやろうってことで行ったら、古代のバンドにテラさんがいて、その時に初めて会ったんだ。お互い生まれは山梨だし、初対面だったのになんか10年来の友達みたいに盛り上がっちゃってさ。で、「うちの店に出なよ、リハーサルもできるよ」って言ってくれて、そこから西荻窪のLive Spot Terraで演奏するようになった。ギターショップもあって、そこでヴァイオリンの舞ちゃん(=磯部舞子)とも知り合った。僕が思うにテラさんて人がみんなを繋げてるんだよ。人間性ですよ。あの店にはそういう人間がいっぱい出てる。セッションもやってるし。偉い人だよね。

 ○この世の終わりなど見たくはない

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磯部のヴァイオリンとゲストのSassy Tomoによるピアノのメランコリックなイントロからヘヴィなロック・サウンドへと展開するアルバムのタイトル・トラック。ハードだが間を活かしたキメのフレージングは、1979年のデビュー・シングル「ウエブロ(なぜ呼ぶの)」を連想させる。

歌詞もヴォーカルの表情もシリアスだが、後奏の最後の部分で明るいコード感を漂わせて終るところから、あくまでも希望を見つけようとする意志が伝わってくる。波人の盟友、松藤英男がコーラスでゲスト参加。

──レコーディングに備えて制作したデモとはかなりアレンジが変わったそうですね。

 朴保 ドラムマシーンを使ったデモの時はもっとゆったりしていたんだ。そこから土屋さんとか家に呼んで、リラックスしてマイク無しでドラムをミュートして演奏したりしながらいじっていった後に、スタジオに入ったら、自分一人で作ったものからどんどん変わっていった。

──歌詞はかなりシリアスですね。

朴保 原発事故の収束ができないまま、毎日イライラしてるうちに作ったんだ。原発だらけでまた動かそうなんて。結局俺達があとどれ位生きるって、たかが知れてるわけじゃない。安倍だって俺と同じ歳でしょ。自分は良いけどあとの人達はどうするんだって。多分僕らが生きている間に原発を全部解体して無くすというのは無理だ。だけどせめて停めて廃炉にするまでは僕らがやらなければならないと思う。諦めるんじゃなくて次の世代に伝えなきゃならない。

──ネイティヴ・アメリカンの文化にも子孫のことを考えるっていう発想がありますよね。

 朴保 そうだね、ネイティヴ・アメリカンは、七代先の子孫のために今何をしなきゃならないかってことを考える。それを考えれば今やらなきゃならないことが分かる。

──この曲は、公式サイト通販とライヴ会場のみの限定特典でアルバムに付くアナログ7inch EPに収録。アナログへのこだわりが伝わってきますね。

朴保 45回転はやっぱり音が良いよね。昔はお金が無くてシングルしか買えなかったじゃない。当時はレコード屋さんにいくと店員のお姉さんが全部聴かせてくれた。レッド・ツェッペリンの最初のシングルが出た時は衝撃的だった。ヴァニラ・ファッジが出てきて、あの「ユー・キープ・ミー・ハンギング・オン」が強力だった。

EP

通販/ライブ会場のみ数量限定特典EP

あの頃はステレオ持ってなくて、小さいスピーカーが二つ付いたポータブル・プレイヤーで聴いていたんだ。けど針から直接配線して、ギター・アンプにつないで、ステレオにしてでっかい音で聴いてみたら凄くってさ!

でもLPが出て友達が貸してくれたの聴いたら、33回転は同じ曲とは思えないぐらい全然しょぼかった。クリームの「ホワイト・ルーム」もそうだよね。シングル盤の方が断然音が良いよ。あと僕の推薦盤はザ・デルズっていうコーラス・グループの「恋は水色」。凄いよ、シングル盤で聴いたら鳥肌立つよ。CDはCDの良さがあるけれども、これで聴いてもらいたいね(笑)。

 

 ○かわいた心に

エレピとヴォーカルだけの音数の少ない序盤で醸し出す繊細な情感が、ロバータ・フラックの「やさしく歌って」を連想させる。途中からバンド全体が加わると、演奏は優しさを漂わせつつもラテン的なグルーヴを奏でていく。ここでの朴保の声は力むことのない穏やかな表情で、しなやかな温かみに満ちており、ヴォーカリストとしての力量を発揮している。

──家族との気持ちのやり取りに苦労する気配がリアルで、実話がもとになっているのかと思いました。

朴保 これはずいぶん前に作った曲なんだ。だいぶ前にこれを僕が演奏した時に志田さんから「家族うまくいってるの? 心配になっちゃった」って言われて「そんなことないよ」っていったのを覚えているよ。

でもこれは僕の家族に言っているんじゃなくって、一般的に今、本当のスキンシップっていうのが、何なのかなってことを歌ったの。

最初は自分の日記かなんか見ながら、バーッとコードをつけた。そこからアレンジの部分でジャズ・ギターの人にコードを習ったり…僕も貪欲だからいろんな人と会いながら、時間をかけて練り上げてますね。そういう意味じゃ凄い時間かかっている。

作ってからずっとやってなかった曲なんだけど、Bodhidharmaのメンバーだったら合うなと思った。

 ○されどそれも愛

徳之島出身のパーカッショニスト元田優香が、コンガ、タンバリン、ボンゴなどで大活躍しているニューオーリンズガンボ風のナンバー。曲調は明るい躍動感に満ちており、歌声にもあまり陰りは感じられないが、実はこの歌の中の主人公は、ひとりでのたうち回っている孤独な男。曲調も歌詞の内容に合わせていたら、陰惨な印象となっていたかも知れないが、これも一種のラヴ・ソングといった手法で、聴きやすい形に収めている。豪速球ストレートのプロテスト・ソングを多数書いて来た朴保だが、ここではそうした路線とはひと味違うソングライターとしての巧みな一面を発揮している。

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元田優香(per)  写真:山本真子

──タイトルからはいわゆるラヴ・ソングかと思いがちですが、実は男女の愛を歌った曲ではありませんね。

 朴保 これもやっぱり原発事故の後に書いた曲。以前僕をもんじゅの前に連れてってくれた運動家がモデルになっているんだ。はじめは「Dearクマ」ってタイトルだった。

彼とはけっこういっしょに旅しました。彼も詩をくれたりしてるんだけど、僕が見たクマさんていうのを詞にしてみようかなと思ったらこんな詞になっちゃった。ヒッピーでね。いつもギター弾いてさ。やっぱりボブ・ディランとレノンとボブ・マーリィが好きで。

- 『この世の終わりなど見たくはない』特集 part3 へ つづく -

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■タイトル:「この世の終りなど見たくはない」
■発売日:2015年10月11日
■予価:3,000円+税 ■型番:POE-06
■レーベル:WATCHOUT ■販売:メタカンパニー
■解説 志田歩
EP 数量限定特典!
メタカンパニー/朴保公式サイト通販及び
ライブ会場にて御購入の場合は、左記の
アナログ7inch EPが付属します!

 ■「この世の終りなど見たくはない」収録曲 全13曲
01. Fuji City
02. 愛トワに
03. 一枚のビラ
04. Coz I ♡ U
05. この世の終わりなど見たくはない
06. かわいた心に
07. されどそれも愛
08. Constitution No.9
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09. リメンバー
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10. 二風谷
11. Always with you
12. チェジュ4・3
13. だるまさん転ばないよ